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October 23, 2016

AT-4

sakamoto factory
interview

つくるだけじゃなくて、
売れれば楽しい。
社会とのつながりの中で仕事をする。
// 坂本製作所インタビュー

坂本製作所は品川区、不動前駅から歩いてすぐの場所にある。インサートという聞き慣れない金属製品をつくるその工場の音で Cherryboy Functionの楽曲は構成されている。70代にしていまだ現役の工場長にお話を伺った。

sakamoto metal

ID-4

komatsu spring idstr.
dj tasaka

ねじが入る部品、インサート金物。金属切削ドリルと機械の軋む音。そのノイズをデトロイト色の強いトラックへとインサートした。極上のグルーヴをまとう都市のサウンドトラック。

メーターのような計器の中の
スイッチボックスに使われてる。
そういう品物なので
イメージが難しいかもしれない。

坂本製作所さんではインサート、というものをつくっているそうなのですが、インサートとはそもそも何ですか。

プラスチック成型品に埋め込まれている部品なんだけど、説明が難しいね。ネジをとめたりするときの受けになるパーツだよ。

これはどういうところに使われるんですか?

これは計器。メーターのような計器の中にスイッチボックスが挟まっていて、このインサートを入れて締める。そういう品物なのでイメージが難しいかもしれない。

なるほど、確かにあまり注意して見たことがなくて、ちょっと難しいかもしれません。これはどうやってつくるのですか。

長い丸棒の素材を仕入れて、それを機械に通す。切断して、断面に穴をあけたり削ったりしてつくる。

つくる上での工夫などはありますか?

機械の刃物を動かす順番を変えることで製品の角の位置をかえたりしているんだけど、制御の順番を設計するときは製品の最終形から逆算している。どんな風に刃物を動かして素材を加工するかはつくる人間が考えて決める。そこが工夫どころかな。依頼されてくる製品の設計図の中にはそういった順序は書かれていないので。

なるほど、機械を動かす前の部分が大事なんですね。

機械に入れるだけで勝手にできあがるもんでもないからね。だから余計に若い人にやりたくないって言われちゃうのかも(笑)。

自分で考えるところが楽しいところ、ということはありませんか。

そこは好き嫌いの問題だね。好きな人は面白がってどうやってつくるか熱心に聞いてくる。制御用のパーツの形も自分でつくって、刃物を動かす順番も自分で決めて、最終の製品の形に合うよう、つくり上げていく。この機械を制御するパーツがカムといって、これも自分でつくらなきゃならない。必要な動きを計算し、図面を引いて、金属板を加工してつくる。それでこの工作機械に取りつける。

目分量といえば目分量かもしれない。
だけど、計算はしているんだよ(笑)

カムの加工はどんな風にやるのですか?

この板、ここに角度の線が引いてあるでしょう。これを目安に、どれくらい削ったらどれくらい機械の動作が変わるかを計算する。このあたりの具合は、全て頭の中に入ってるね。金属板にドリルで穴を開け、穴に沿って切って大まかな形をつくる。それにグラインダーをかけて滑らかにする。

これは、もしかして目分量ということですか?

目分量といえば目分量かもしれない。だけど、計算はしているんだよ(笑)。たとえば「この製品は1mmごとに螺旋型に削りを入れる必要があるから、機械のアームを上げ下げするのにカムを20度動かす」といった風に。

数字上の基準はありつつも、ある程度勘どころもある。

それが職人のいいところであり、悪いところでもあるかもね。いまどきこんなアナログなことをする必要はないでしょう、って言われると、まぁそりゃそうでしょう。でも、たくさんつくるのにはこっちのアナログなほうが良いんです。仕様の簡単な製品でも、デジタル制御のものでは数があまりつくれない。その上、値段が5倍も10倍もしてしまう。一方でこのアナログな機械は数をたくさんつくることができる。だからどうしてもこういう機械が必要なんだよね。1〜2mmの太さで掘る、という作業もアナログな機械でやってる。いろんな刃物を変えてつくってみる。どんな刃物でやるか、どんなふうに研いだらいいか、自分で考えてね。

刃物を研ぐのも自分でやるのですか。この機械に固定されている刃はご自身で加工されたのですか?

そう。ちょうどいい形の刃物が都合よく売っているわけではないので。こういうプレーンな刃物を買って、グラインダーで削って研いで形をつくっていく。これは職人じゃないとできない。それに、使っていくうちに劣化して、刃が欠けたり、丸くなってくる。そのたびに研ぎ直す。手作業なので、精度も変わってくるし寸法も変わる。

素人には包丁を研ぐことも難しいのに、精密なパーツを設計図通りにつくろうと思ったら、職人にしかできないはずだと思います。メンテナンスのタイミングはどう判断されているのですか?

見た目だね。ずっと見張ってるわけにはいかないので、一本分の素材のうち1回か2回は途中で確認する。そこで出来上がりが良いか悪いかを判断する。仕上がりが悪いとその前後も全てNG。それでもやっぱりアナログの機材の方が早くて効率がいい。結果的にはアナログの方が安く上がる。

これができるようになるまで、どのくらい時間がかかるんでしょうか。

好きか嫌いかの問題はあるけど、5-6年はかかる。好きな人は覚えるのも早いけど、嫌いな人が嫌々やっていたら20年経ってもダメだよ。

それは職人に限らず、他のジャンルでも同じことが言えそうですね。

つまり、精度というのは、
機械の精度よりも職人の精度の違い。

もっとこう、何か身近な製品で使われているものはありませんか。

たとえばこれはボリュームノブ。これをつくれるところが減ってる。アルミの加工が難しいからね。樹脂を中に圧入して、真鍮のシャフトを入れて、横ネジでとめて、側面には一本一本溝を入れて。表面は梨地を打つといって、砂の粒をぶつけてつや消しにして。ただアルミを光らせるのでなく、くぐもった素材感を出してる。国内の音響メーカーのステレオやアンプは大きいノブが付いていたよね。あれも今では貴重なんだけどね。メーカーはどこも来年、再来年と困ってくると思うよ。国内でつくれるところが減ってきているから。

海外でならつくれるのでしょうか?

いや、メーカーもできれば国内でつくりたいんだって。つくる量も1000〜2000個で少量だからね。何10万単位でつくるなら海外に持っていってしまうだろうけど、製品が嗜好品だから。海外の工場でもできないことはない。

海外はやっぱり安くつくっているのですか。

まぁ安さではかなわないね。でも、たとえ日本と海外の工場が同じ機械を使って同じものをつくっても精度が違う。つまり、精度というのは、機械の精度よりも職人の精度の違い。こういったアナログの機械を使ったときの日本の職人の精度はすごい。お客さんの製品仕様で誤差は±何mmまでと決まっている。海外ではアナログの機械でそこまでの精度が出せない。とはいえ、いまはこのデジタルの機械を使えばできるよ。これなら数値を入れて素材を入れるだけだから。あとは、今は海外だって馬鹿にならなくなってきている。特に台湾はレべルがあがってきているな、と感じるね。国内だと、こういう硬い素材を扱っているところはどんどん減ってっちゃうね。柔らかい素材は増えてくかも。

柔らかいものは、例えば何になりますか?

プラスチック。うちでも最近多いよ。ただし、加工は難しい。収縮率があって、削るときの摩擦の温度で縮んだりする。金属の方が扱いやすかったのもあってもともとはそんなに扱ってなかったんだけど、新しく勉強しながら挑戦してるよ。というのも、プラスチックだと少数で値段がつけられて、100〜1000個くらいならこちらで値段を決めて提示する。

うちの工場でできないものは、
他の工場でやってもらう。なので、
「街のみんなでつくっている」という感じ。

新しい素材も勉強しなきゃいけない、って大変そうですね。

そんなでもないよ。ノウハウを教えて貰えばいい。プラスチック専門の工場があって、そこへいけば仲間がいるからね。この辺りの工場は皆で助け合って連携しているよ。たとえば、部品がなければ借りに行ったり、材料がなかったらもらいに行ったり。

醤油借りに行くみたいな感じ。

そう、そんな感じ。ちょっとした端材が必要なだけのときとか、普通に買うと大量になっちゃうし。4〜5人で仕事してる人がほとんどだから、各工場でお互い融通効かせるよ。みんな持ってっていいよ、ってテイクフリーにしちゃった部品すらある。それこそ素材の融通だけじゃなく、仕事自体も融通しあっている。うちの工場でできないものは、あっちの工場でやってもらう、という風に。なので、「街のみんなでつくっている」という感じもあるね。

そう考えると、この場所だと一緒に考えてくれる人がいていいですね。

何十年も住んでるからね。新しいところに引っ越したらそうはいかない。コンビニと同じで、この場所だからいい値段で売れる。八王子や埼玉だと値段がガクッと下がる。郊外にいくとけっこう工場があるんだよ。でも、そういうところで値段を聞くととても安い。

なぜ同じ関東で場所が変わるだけで値段が変わるのですか?

大量につくってるからね。でも、東京の真ん中でやるなら別のやり方の方がいい。コンビニも高くてもモノが売れてやっていけているでしょう。いろんなものがあってすぐ調達できる、すぐ売れる。

なるほど、便利なんですね。坂本さんは年齢的には上のほうですよね。頼られることも多いですか?

僕は70代。周りは40,50,60代と様々だけど、正直年齢は関係ないよ。むしろ僕が教えてもらうことの方が多い。若くても知識を持っている人がいるんだよ。だから聞きに行く。素材が違うとどんな風に刃物は研ぐのか、どんな油を使うのか、とかさ。

若いというほどでもないかもしれませんが、彼らもアナログな工作機械を使ってらっしゃるのでしょうか。

2代目の工場主は使わないな。数値制御の機械は刃物つけるだけだから簡単だけど、アナログな機械は使えないんだよね。これで今何件か困っていて。親父さんがいなくなるって。アナログじゃないとできないものもあるんだよ。一方で、僕は数値制御の機械は扱えなくて若い子に任せてる。最初に教えてもらったんだけど、半年使わないと忘れちゃった(笑)。

いまだと職人はだいたい6分くらいで、
4分は営業マンでないといけなくて。
それが昔の職人にはできなかった。

同業他社がつくった製品と坂本さんのつくった製品、違いは見て分かりますか?

自分のところでつくったものはだいたいわかるね。同じ製品をつくっていてもわかる。肌。切り口が違うんだよ。あとは穴の面の取り方とか、切断の仕方とかが微妙に違う。やっぱり個性があって知らないうちに出てくるんだね。普通の人はわからないと思うけどつくる側にはわかって、微妙に違う。これはどこの工場の人もそう言うね。寸法にも多少違いがでてくる。これは何十年も見てるからなのよ。どんな人でも40年50年同じものをつくってればみんなそうなると思う。こんなこといってて、職人はよくこんなものを何十年も飽きずにつくってるな、って言われることもあるけどね。

でも職人さんってそういう仕事ですよね。1つの物事を突き詰めていくといいますか。

うちは逆に突き詰めすぎない。「これくらいで上出来だろう」というキリのいいところで終わりにする。あんまり突き詰めてもそれ以上に利益が出ないのであれば仕方ない。職人でありながら同時に商人でもあるのかもしれないね。

音楽業界のあるアーティストが「作品は締め切りがつくる」と言っていて。「これはここで完成なんだ」と決めるから完成になる。これくらいでいいだろう、とおっしゃるのもそういうことなんだと思いました。締め切りがあるから、ここで出来上がりって決めるから制作物が完成すると言いますか。

そう、その言い方の微妙さはあって、はっきりは言えないんだけど、気持ちとして「こんなもんだろう」ということはあると思う。最後までとことん突き詰める人もいるんだけどね。いまだと職人はだいたい6分くらいで、4分は営業マンでないといけなくて、それが昔の職人にはできなかった。営業の要素が3割4割あってこそ自分の生活ができるんだけど、それができない人ばかりで、職人気質を突き詰めて貧乏になっちゃった。そういう人たちは限界がきて、やめることになってしまう。職人だってモノをつくっても売れなきゃメシが食えない。極端なことを言うと、職人技で表彰されても表彰状ではメシは食えなくて、その製品が売れるようにしないといけない。どんな風に製品を魅力的に見せるかは違うアタマの使い方で、アイデアが必要。幅広く、ものづくりだけじゃない方向を取り入れなきゃいけない。例えば、人間って楽するために試行錯誤するよね。それこそ、いままで3工程かかったところを1工程にしちゃうとか。

それはけっこう冒険なんじゃないですか。それで失敗する時もありそうですね。

そりゃ当然ありますよ。試してみたら刃物がすぐ全部だめになっちゃったとかね。それでも、そういった試行錯誤を経ていないと、次のことを考え付けないから。うまくいくとうれしいよね。とはいえ、それでいくらか儲かるかな、って考える。つくるだけじゃ何にもならない。でも、売れれば楽しい。やっぱり社会というか、お客さんとのつながりの中で仕事をするってことだよね。

FACTORY

sakamoto factory

有限会社坂本製作所

東京都五反田の工場。プラスチック成型に使用するインサート金具など、日常目につかない部品が主流で、大部分の部品をアナログタイプにて、制作している。注文品が多く、その中でも各種サイズを取りそろえており、急な注文や即日使用に対しても対応可能な状態となっている。金具の材質は、BSBS、鉄材、SUS、アルミ、樹脂等。

〒141-0031 東京都品川区西五反田5丁目15-9

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