idstr.jp open share
December 13, 2017

AT-7

meiko futaba
interview

最先端のものづくりへ抱く、
淡々として静かな情熱と誇り。
// 明興双葉インタビュー

街の電線や車の内部に使われるハーネス用の部品を製造している、明興双葉。都心から離れた茨城県の常総市に工場のひとつを構えている。工作機械の小刻みな動作音が折り重なって生まれる轟音、その中に包まれながら、工場長とベテラン職人にお話を伺った。

meiko wire

ID-7

meiko futaba
paisley parks

ひたすら回る。編み込む。捻り上げる。電線の加工、電気導体の製造、ワイヤーハーネスの製造過程はBPM160。その高速かつ華麗な円運動から紡ぎだされたPaisley Parksのジュークに合わせ、フロアにずらりと並んだ編組機たちがフットワークダンサーのごとく踊りだす。日本の技術の先端から、シカゴのストリートに投げられたリアル・ジャパニーズ・ハイテック・ジューク。

要するには金属の糸で
編み物をしているんです。

何やら細い線をぐるぐる振り回している機械が多く見受けられます。明興双葉さんではどんな製品を作っていらっしゃるのですか。

小林:あのたくさんの糸がつながっている機械ですが、要するには金属の糸で編み物をしているんですね。たくさんの金属の糸を編んだりねじったりして束ねることで製品をつくっています。編み方やねじり方によって、それが電線になったり、ハーネスになったりと、製品の種類が変わってくるんです。

電線といいますと、街の電柱につながっているあの電線のことでしょうか。

小林:そうですね。もっと広い意味では、電気を通す金属線だと思ってください。たとえば発電所で使われる長くて太いものもあれば、機械の電源ケーブルもそうです。

ハーネスというと、車の中で血管のように張り巡らされているケーブルのイメージがあります。

小林:おっしゃるとおりです。横幅を広く、厚みを薄く、中が空洞になるように編んでいます。そうすることで曲がりや振動に強くなるんですね。もともとはこれも電線として、機械の中で電気を通すためにつくってたんですよ。ギチギチに巻いて伸び縮みしないように作っていたんです。いまはどちらかというと電線ではなく、シールド。中の空洞に電線を通して、電線から発生する電磁波の影響を防ぎます。中にものを通すので、伸縮性をもたせるようゆるめに編まれています。新しい編み方ができるようになってはじめて、車のハーネスに使われるようになりました。ゆるく編むのもギチギチに編むのも同じ機械を使っているんですが、実はゆるく編むほうが難しいんです。

古くて遅い昔の機械は、ボタンを押すだけで
何かできるようなことはありません。
そのぶん使う人の腕次第で工夫を加えられる。

ゆるいほうが難しいんですか? なんとなく日本の工場の製品って、細かくて精度が高くて正確で、というイメージなので、ギチギチにできるほうがなんだかすごそうに感じますが。

小林:たしかにそういうイメージはあるかもしれませんね。10年くらい前でしょうか。当時はまだきつく編んだものが製品仕様だったのですが、お客さんからゆるいものがほしいと依頼があり。もともときつく編めるようにつくられた機械だったので、そこから試行錯誤がはじまりました。糸を引っ張る重りや糸を束ねるパーツの高さや幅など、繰り返し微調整する中で新しい編み方が生まれたんです。

なるほど。ギチギチにするには単純にフルパワーに振り切ればいいけど、ゆるく編むには力加減が必要なんですね。

小林:そうなんです。その絶妙な調整具合がうちのノウハウになっています。それも、あえて古い機械を使って製造しているんですよ。最新の機械はボタンを押すだけで勝手に製品を作ってくれます。操作もシンプルで簡単だし、正確かつスピーディーにたくさん作ってくれて効率はとても良いです。ただ、そのぶん融通が効かないんですね。調整できる要素が少なくて、人間の肌感覚での微調整というのができないので、作れるものが限られてくる。古い機械を捨てて最新の機械で画一的な大量生産をしていたら、この技術は編み出されなかったでしょうね。

アナログな機械だからこそ、人間の手による微妙な調整や試行錯誤ができた、と。

小林:そういうことです。最新の機械はたしかに効率はいいんですが、そういうのは大手が大量にそろえてやってるので、うちみたいなところが出る幕ははないんですよ。古くて遅い昔の機械は、ボタンを押すだけで何かができあがるようなことはありません。ただ、そのぶん使う人の腕次第ではさまざまな調整や工夫を加えられるところが良いところです。

高い技術力が必要な製品なのに、使っている機械は古い。一見逆転した状態なのがおもしろいですね。だとすると、そういった古い機械を操るのには職人技が必要になってくるのでしょうか。

小林:そういう面はありますね。古い機械はベテランが使っています。古くてアナログなので、それこそ同じ機械でもそれぞれクセが違ったりもするんですよ。

同じ機械なのに微妙に違うとなるとよっぽど使い慣れてないと難しそうです。作れる人も限られてくるのでしょうか。

小林:もちろん蓄積したノウハウは製品ごとにマニュアル化していて、それを見れば他の人でも作れるようにはしています。製品ごとの幅の違いや網の細かさ、ギアの違い、機械を回すスピードなどなど。マニュアル自体もアップデートを繰り返しています。他の大企業さんが同じことができていたらそちらに発注がいくでしょうから、いまのところまだうちの技術はオリジナリティを保てているようです(笑)。いったんセッティングができたらあとは機械任せなので、実際に製造をはじめるまでの準備が現場の職人の腕の見せ所ですね。

自分は現場だから、
いまの機械でどうやったらできるか考えて
地道にやるだけだよね。

作り始める前が職人の見せ場。これまでの他の工場でもそうおっしゃる方が多かったです。明興双葉の職人といえばこの人、という方はいらっしゃいますか?

小林:うちの課長の針替が代表ですね。

針替さんは具体的にはどんな役割でお仕事されているんですか?

針替:どこでなんの機械が稼働してるかを把握しておいて、様子を見ることですかね。あとは、現場がわからないことがあれば助けたり、線が切れちゃったみたいなトラブルの対応とか。

どちらかというと現場監督的なイメージでしょうか。どんなときに仕事で達成感がありますか?

針替:うーん。仕事自体は同じことの繰り返しなので、達成感といわれても難しいかなぁ。

あまり達成感はないですか(笑)。

針替:お客さんの要望に応えられたときは、あるかな。

といいますと、やはり難しい要望もありますか?

針替:これは無謀だなぁ、って注文もありますよ。でもまぁ、自分は現場だから。いまの機械でどうやったらできるか考えて地道にやるだけだよね。

ものすごく淡々としてらっしゃいますね(笑)。とはいえ、ある意味職人らしいというか。ものづくりをしていく上でのこだわりはありますか?

針替:こだわりと言われても、難しいな(笑)。

職人というとこだわりが強そうな印象をもたれがちですが、そうでもないですか(笑)。

針替:あえていうと、不良品を出さないことかな。

やっぱり淡々とされてますね(笑)。

針替:そうかな? まぁ、そんなもんだよ(笑)。

小林:針替さんは大したことしてなさそうにおっしゃってるんですが……。50ミクロンの金属線を切らずに編むのは、やっぱりかなり高度な技術なんですよ。誰でもできるようなものじゃないです。僕も今回のインタビューで職人の向き不向きやつくる上でのコツを聞けると期待してたんですが、彼の口からは全然出てこないですね(笑)。

たしかに、あまり多くを語られないですね(笑)。

目立ちたがりは少ないですが、
ハイテク商品に自社製品が使われていることに
静かに誇りを持っています。

小林:私としては工場を運営する側なので大事なことなのですが……。おそらくご本人がそういった高度な製造技術自体を、難しいと思っていないんでしょうね。おかげで、会社としては人材育成が課題になっています(笑)。

職人の方は「見て覚えろ」というタイプの方も多そうですもんね。人材育成以外でも会社や工場として気をつけていることはありますか?

小林:この業界の人は、目立ちたがりの人は少ないのですが、一方でハイテクな商品に自社の製品が使われていることに静かに誇りを持っています。なので、社員のみなさんのモチベーション向上のためにも、いまつくっているものが何に使われている部品かを社内で周知するようにしています。

自分の仕事やがんばりが社会にどう影響を与えているかを知れることは大事ですよね。

小林:とはいえみなさん、別にことさら周囲に自慢したりはされないんですけどね。こっそり心の中で「この製品は自分のおかげで動いてるんだ」って思えれば満足みたいです(笑)。淡々としつつも、みんな誇りや情熱をもってやってくださっています。

そんなみなさんのお仕事をミュージックビデオで紹介してしまっていますが、大丈夫でしょうか(笑)。

小林:自分たちがふだん眺めている工作機械があんなにかっこよく見えたのは初めてで、正直驚いています。何度見ても自社の機械だとは思えません。INDUSTRIAL JPの方も以前おっしゃっていましたが、裏方の仕事がたまには表に出ることがあってもいいのかもしれませんね。

FACTORY

meiko futaba

明興双葉株式会社

1954年創業。国内の茨城県常総市、山梨県中央市と南アルプス市、岩手県一関市の他、海外では中国広東州にも製造拠点を構える。「電線」と「ハーネス」の2つを主要な事業としている。電線事業部では、電気機器の電源ケーブルから市街地や発電所の電線、自動車内のハーネスに使われる電線など、金属線を糸にし、ねじる、編み込む加工で製品づくりを行っている。

茨城工場:〒300-2521 茨城県常総市大生郷町6140-1

web