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October 23, 2016

AT-5

goko hatsujo
interview

マニュアルにないこと、
新しいことに挑戦し続ける。
// 五光発條インタビュー

複数の工作アームが寄ってたかって1本のばねをつくり続ける、そんなシーンが印象的なSountriveの楽曲PV。映像と音素材の元になったのは横浜市瀬谷区の五光発條。あの工作機械から生み出される製品や工場について、社長と製造担当者にお話を伺った。

goko bane

ID-5

goko hatsujo
sountrive

鉄鋼アーム群の軋み、その腕を制御するモーターやポンプ、ギアの精密かつ正確無比なその動きが奏でる音を有機的にまとめあげた一曲。機械が織りなすポリフォニック・グルーヴだ。

うちのばね製品が入っていないものに
触れずに暮らすことは不可能ですよ。

ばねといえばある程度どんな物か想像はつくと思うのですが、具体的に五光さんの製品が使われている、という例を教えてください。

村井社長(以下、村井):うちのばね製品が入っていないものに触れずに暮らすことは不可能ですよ。1番分かりやすいものでシャープペンやボールペン。分解したことがある人も多いのではないかと思います。それ以外でも車、スマホ、パソコンなどなど。このあたりは表に出ないので全く見えませんけどね。ばね自体に実際に触ってもらえることってあまりありませんし。

逆にいうと表に出るばねもつくってらっしゃる?

村井:そうです。ばねの認知をあげるためにも、ばね自体の材質・性質を活かした商品を自社オリジナルで開発しています。
たとえば、これがSpLink。頭の中で想像した物を形にするときに、金属を使ってそれを表現することって人間にしかできないことだと思うんです。SpLinkという製品は、小さなばねをたくさんつなぐことで思いのままの形をつくることができます。

これは普通に買えるものなんですか?

村井:東急ハンズで買えますよ。LOFTは2〜3年前は売ってましたがいまは置いてないです。これが初めての自社製品でした。初めてってのもあって、売ってくる営業のためを思って、猫みたいなポップなものにしたり、文房具コーナーにも置いてもらえるようにペン立てにしたりしましたね。

ばねの話を聞きにきてばね以外のものが早速出てくるとは思っていませんでした。いや、ばねなのは間違いないのですが。

村井:他にはカードスタンドもつくっていますよ。これは「Factionary」というブランドです。普通カードスタンドってプラスチック製のものはよく見かけますよね。戸棚などでカードが見えやすいように角度をつける必要があるのですが、金属を加工してつくるのは少し難しいし手がかかります。これだとスタイリッシュだし角度も変えられる。評判も良いです。

国内で生き残るためにはどうすればいいか、
考えた答えの1つが「目立ってなんぼ」ということ。

こういった製品を村井さんがつくりたいと思ったきっかけは何ですか?

村井:SpLinkなんかは、シンプルに閃いちゃったんですよね。「これがあればなんでもつくれんじゃん!」って。自分でも感動しました。試作のばねをつくって、それを使って魚の形をつくってみて、そしたら周りもおもしろいと言ってくれて。仕事でこういった経験をしたのはそのときが初めてでした。普段だとお客さんから図面をいただいてそれの通りにつくるのが基本ですし、金属で柔らかいものを表現する、ということもないですし。

初の自社商品ともなると、SpLinkの試作には苦労されましたか?

村井:それでいうと、試作段階ではもう一回り小さかったんですよ。今の僕らの技術で可能な最小のサイズにしようと思って。そしたら細かいものがつくれるかな、と。ただ……小さいばねだとあまりに硬くて、遊んでいて指が痛くなっちゃったんですよ。遊びやすくするためにもこのサイズに落ち着きました。
逆に大きいサイズもつくって椅子などもつくれるようにしたいのですが、ただそういった大きいものをつくるにはもっと材料が必要だし、機械も使えるものが限られてくる。本業の仕事で注文が入ったときはそちらに対応しなければいけないので、プロトタイプのために機械を占領するわけにもいかず、です。

なぜ、それでもこういった自社商品をつくろうと思ったのでしょうか。

村井:ふだんは家電メーカーからの受注が多いのですが、いま日本の家電は大変な状況ですよね。ばねメーカーとして国内の競争で生き残っていくためにいろんな技術を蓄えなきゃいけないですし、一方で、「安ければ海外のばねでいい」というお客さんをどう振り向かせるか、という課題もあった。国内で生き残るためにはどうすればいいか、考えた答えの1つが「目立ってなんぼ」ということ。まずは知ってもらいたい、という。それと、図面の通りにばねをつくってると1つ1円以下なんですね。ばねの価値を上げるためには、うちしかできないような技術や加工方法を持たなければいけない。なので、自社製品をつくることでばねの価値を上げていこうと思っています。町工場が自分たちの技術だけで1つのブランドを立ち上げるようなことって珍しいと思うので、注目してもらえるとうれしいですね。

加工する部品の先端は手作業、
目視で調整しています。
この仕上げにはこだわりがありますよ。

製品はこの機械でつくられているのですね。たくさんの種類のアームがあるみたいですが、これは全て使っているんですか?

山本:基本的には全部使ってますね。使う順序や組み合わせを変えることで製品をつくり分けています。部品が右に動いたり左に動いたりすることで複雑な形もつくれるんです。つくる製品によって材料の太さが変わりますので、当然材料の太さによって装着する部品も変わります。部品を変えるだけで製品に傷がついちゃうかどうかも左右されます。あと、この部品の先端部分は手作業で調整しています。

この線材を加工する先端部分を、手作業で調整しているのですか。たしかによく見ると削れ方がランダムですし、手作業で仕上げている感じがありますね。目視で調整されているのですか?

山本:目視しかないですね。顕微鏡で覗きながら溝を削ったり、材料の切れ端をあててきちんとはまるかを確認したりします。この手作業で仕上げている部品の仕上げにはこだわりがありますよ。

アームの組み合わせや動かし方は製品ごとに決まっているのでしょうか?あるいは現場でその度考えたり。

山本:お客さんからは図面が送られてくるんです。でも、図面にはつくり方は書いていません。「いつもの」なら普段どおりにつくりますし、そうでないものに関してはどうつくるかは僕ら側で考える。ばねメーカーによっても違ってくるんじゃないでしょうか。うちだったらこうする、というやり方がそれぞれあると思います。ばねの形状や加工時の力の加減など、各社でノウハウがあるので。ばね1つとっても色んな特徴がありますね。

なるほど。一般的なレシピもあれば、オリジナルでつくるものもあるんですね。

山本:そうですね。ばねとして問題が起きないようにすること、ちゃんと使えるものをつくる、ということを基本において製作しています。お客さんの図面の通りに素直につくると、使ってるうちに折れちゃうものもあるんですよね。そういうときは自社のノウハウを加味して、オーダーとは全く違うものをつくったりもしますよ。よそだと折れちゃうけどうちでは絶対折れない、というようなノウハウがあると強みになります。

メーカーの設計の人たちがみんなばねに詳しい、というわけでもないですもんね。

山本:そこはうちが専門なんで、当然うちのほうが詳しくないといけません。もちろんメーカーさんとも二人三脚な部分もあって。試作品を出してメーカーさん側で組み込んで耐久テストをしたときに不具合が出たりすることもあります。そこで初めてつくったばねへのフィードバックがあって、そこからまた新たに開発・設計が進むんです。

SNSやクラウドで、
技術を持て余した町工場の人たちと、
新しいことを始めたいベンチャーが
マッチングがされるようになってきているんです。

何の製品のどこに使われるばねか分かってないと、もっとこうしたほうがいいのでは、といった設計の提案はしづらい気がしたのですが、メーカーさん側からは説明があったりするのですか?

山本:メーカーさんからは基本的にはばねの図面を渡されるだけで、何に使うかを教えてくれることは少ないですね。

村井:また、最近は設計できる人がどんどん海外に行ってしまっている面もあって。

やはり海外への流出はあるのですね。それこそ海外にも工場を展開されていると伺いました。

村井:そこは時代に合わせての対応ですね。うちのような町工場が海外にも工場を展開していると、大きい会社なんじゃないかと錯覚されやすいのですが。逆に言うと、日本だけでは食っていけないくらい追い込まれている、ということでもあります。

そんな厳しい状況の中で、日本でばねづくりを続ける価値はどこにあるのでしょう。

村井:いまってSNSやクラウドサービスが発展してますよね。そこでのマッチングがされるようになってきているんです。技術を持て余した町工場の人たちと、新しいことを始めようとしているデザイナーやクリエイターがFacebookなどで繋がるようになりました。ベンチャーなど、新しいものづくりをしようとしている人たちが国内で増えてきています。そういう人たちはばねのことは分からないので、一から設計を依頼されます。うちのホームページを見ていただいて「この製品のここにはまるようなばねが欲しい」とお問合せいただいて、一緒に設計していくこともありますよ。

なるほど。僕の友人からも、いったんプロトタイプまではつくれるものの、そこから製品化・量産化する過程が難しい、という話を聞きました。

村井:3〜4年前くらいからベンチャーのものづくりコミュニティの場に通うようになって。ばねのことを聞いてもらいつつ繋がりを広げていこうとしています。そういった新しいものづくりでグッドデザイン賞をとった製品があって、うちのばねを組み込んでもらってます。

マニュアルにないことをやっているからこそ
成功する、ということもあって。
なんてったって、
新しい図面をいただくたびに初めてがある。

日本でばねづくりを続ける上で、「日本製だから、日本の工場には技術力があるから」という価値はありませんか?それこそ職人魂のような。

村井:技術力や職人魂といっていいのかは分かりませんが、まずはポリシーとして、依頼を受けた最初の段階で「できません」と絶対に断らない。他で断られた依頼がうちによく流れてくるんです。うちの場合は、材料の仕入れの段階から相談したり、あの手この手で工夫しているうちに、結局よそではできないことができるようになってくる。うちで当たり前にやっていることが、実はよそではできないことだったりしてくる。あまり意識はしていませんが、もしかしたら、そのこだわりや経験の蓄積が技術力と職人魂、なのかもしれませんね。

それが普通だと思っているので、職人だと実感することはあまりないんですね。

山本:周りから「難しいことやってますね」と言われて初めて「あ、これって難しいんだ」と自覚することがあります。打合せや試作の段階で「これは難しいんじゃないかな」と思う瞬間はもちろんあるのですが、それでも結局なんとかできちゃったことが何回かあって。

村井:実は世界で誰もできなかったことをやっちゃったこともあります。薄さ0.020mmの医療用の部品を頼まれたんですよ。

山本:そのときは機械に材料を通す作業だけで3〜4日はかかりましたよ(笑)。

それはものすごい注文ですね(笑)。そういった難しい製品をつくる工程って大変そうです。

山本:確かに大変ですが、作業しているときが1番楽しいですよ。試作の末に製品が完成して、安定して生産されるようになるとやっぱり楽しいですね。ばねって、開発しようと思えばいろんな種類をつくれるんですよ。しかも材料が均一でなくて結構凸凹があるんです。それらも含めて、いろんな状況を網羅した上で、良い製品をつくる。ばねをつくる設備があそこまで発展しているのは、開発の積み重ねの成果なんです。おかげで工程をマニュアル化するのが難しいのも特徴ですね。

マニュアル化しにくいとなると、技術者のノウハウを伝えていくのが難しそうですね。

村井:そうなんです。ただ、難しいけどやっていかなきゃいけない。マニュアル化していかないと、感覚だけに頼っていくわけにもいかないので。映像使ったりでなんとかして残していかなきゃと取り組んでいるところです。
一方で、マニュアルにないことをやっているからこそ成功する、ということもあって。なんてったって、新しい図面をいただくたびに初めてがある。むしろあえて今までと違うつくり方にチャレンジすることもあります。

山本:ただそれでドツボにハマると、2日間くらいずっと同じばねをつくり続けてるのに完成しないときもありますけど(笑)。

FACTORY

goko hatsujo

五光発條株式会社

1971年創業の線バネ一筋の町工場。日本では神奈川県横浜市、山梨県の2拠点、海外にもタイ、ベトナム、インドネシアにも工場を持つ。超精密ばねの設計、開発、製造、販売を行っており、医療関連、車やバイクなど様々な業種業界にばねを提供。一個単位の試作品から、月産数千万単位の大量生産まで対応している。

〒246-0008 神奈川県横浜市瀬谷区五貫目町25-16

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